小説
イオの末裔
〔Kindle版〕
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《内容》
教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆(鬼塚サヤ)の孫として生まれた鬼塚宏樹(主人公=私)は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のK市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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大航海の時代 |
第二章 航海者たちの迷信
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1.怪物からプレステ・ジョアンの国まで
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■未知の世界の住人
大航海時代の初期、ヨーロッパの航海者たちの多くがインドや中国などの東洋を目指した。しかし、東洋は彼らにとって未知の世界だった。世界地図は存在していたが、それは実際の世界とは似ても似つかぬものだった。現在から考えれば、まったく馬鹿げた迷信も数多く存在していた。東洋を目指したヨーロッパの航海者たちの冒険は、こうした現実の中での悪戦苦闘の連続だったといっていい。
中世から近世にかけてのヨーロッパ人たちは、伝説や物語に登場する怪物が実際に存在していると信じていた。騎士道物語に登場するドラゴンや、古代ギリシア時代から伝承された腹に顔のある無頭人、巨大な足の裏を日傘にする片脚族
(スキアポデス)などがそうだった。
当然のことだが、これらの化け物や奇怪な人間は、ヨーロッパ人がまだ行ったことのない場所、アフリカやインドに集中していた。たとえば、ハルトマン・シェーデルの『ニュルンベルク年代記 (1493)』には、アジアの住人として「角の生えた小人」「鳥人」「スキティアの半馬人」などが描かれているし、16世紀のセバスティアン・ミュンスター編のプトレマイオスのアジア地図には、「インドの片脚族」「スキティアのグリフォン(★7)」「無頭人」「犬の頭を持つ山国の民」が描かれている。
ヨーロッパ人たちは、このような奇怪な人間がどこかに必ず存在していると信じていたようで、 1603年の銅版画でもニューギニアの住人として無頭人が描かれているのである。
■航海者たちの恐怖・ボジヤドール岬
航海者を悩ました迷信にもこと欠かなかった。なかでも有名なのがボジャドール岬にまつわる迷信である。ボジャドール岬は、カナリア諸島の目と鼻の先、アフリカ北西の西サハラ岸にある、岬とはいえないようなでっぱりである。1434年、ポルトガル人ジル・エアネス船長の乗り込んだ、25トン前後の小さなバルシャ船(★8)が、ヨーロッパ人として初めて、ボジャドール岬を越えて航海することに成功したといわれている。
しかし、ヨーロッパの船乗りたちは、この時までボジャドール岬を越えて南へと航海したことがなかった。それは、次のような迷信が信じられていたからだった。
「ボジャドール岬の彼方には、白人でさえ肌が真っ黒に焼け焦げになってしまうような灼熱の炎熱地獄が待ち受けている。そこには人間はだれも住むことができず、人間の居住地など存在しない。海は浅く、至るところに暗礁があり、潮の流れも激しい。そのため一度越えると、もう二度と戻ってくることはできない」
つまり、ボジャドール岬は、先祖代々に渡って設けられた世界の境界線であり、決して越えてはならない場所だったのだ。
■プレステ・ジョアンの国
大航海時代に直接影響を与えた迷信として、プレステ・ジョアン (プレスター・ジョン)に関する伝説を忘れるわけにはいかない。
中世を通じ、常にイスラム教徒の勢力に脅かされてきたヨーロッパのキリスト教徒の間で、12世紀頃からさかんに噂されたのがプレステ・ジョアンの伝説だった。
プレステ・ジョアンという、ほかに比するものがないほど強大な勢力を持つキリスト教の王がインドに住んでおり、イスラム世界を背後から脅かしているというのだ。噂によれば、その国は横断するのに4ヵ月もかかるほどの大きさで、青春の泉や財宝の流れる河、『ギリシア神話』や『聖書』に登場するような神秘的で聖なる場所に満ちていた。
13世紀になると、ヨーロッパ人の中では、実際には存在しないプレステ・ジョアンと結託し、イスラム教徒たちと戦争を起こそうとする考え方さえ登場した。
教皇イノケンティウス4世やフランス王ルイ9世が、有能な部下を中央アジアに派遣したのもそのためだったといわれている。
その後、ヨーロッパ人の頭の中でプレステ・ジョアンの国はインドからエチオピアへと移動したものの、どこかに存在しているという信念だけは長く生き続けた。
ヨーロッパ人の大航海時代も、実際には存在していないプレステ・ジョアンの国を求めるという、キリスト教徒としての宗教的情熱から始まったといっていい。 15世紀に大航海時代を切り開いた第一人者である航海者エンリケ王子も、その後のポルトガルの王たちも、喜望峰を発見したバルトロメウ・デュアスも、「プレステ・ジョアンの国と手を結びイスラム教徒をはさみ撃ちにしたい」と考えて行動を起こしたのである。
◆脚注◆
★7 グリフォン
ギリシア神話に登場する怪物。頭は驚、身体は獅子で翼を持っていた。
★8 バルシャ船
25トン程度の小型船で1枚の横帆を張ったメインマスト1本と必要に応じて立てられるミズンマスト1本を持っていた。以降の船の形態に比べると、全体的に丸みを帯びた、丈の短い船だったと考えられている。
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大航海の時代目次 |
●第一章:豊かなるインド//|1.世界で最も盛んな貿易圏|2.イスラム商人の時代|3.ヨーロッパ世界と東洋|
●第二章:航海者たちの迷信//|1.怪物からプレステ・ジョアンの国まで|2.ヨーロッパ人の世界地図|
●第三章:大洋を越えた航海者たち//|1.イタリア商人の影響|2.航海者エンリケ王子|3.ポルトガル王の派遣した航海|4.西に向かったスペイン|
●第四章:カラベル船とキャラック船//|1.大航海時代を可能にしたカラベル船|2.キャラック船とサンタ・マリア号|3.大航海時代初期の武器|
●第五章:船乗りたちの生活//|1.古い船乗りと新しい船乗り|2.船乗りたちの日課|3.最低レベルの生活条件|
●第六章:スペインの繁栄//|1.ポルトガルの衰退|2.スペインの繁栄|
●第七章:レパントの海戦//|1.オスマン・トルコ|2.キリスト教神聖同盟の結成|3.最後のガレー船による戦い| |
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《内容》
教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆(鬼塚サヤ)の孫として生まれた鬼塚宏樹(主人公=私)は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のK市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆(鬼塚サヤ)の孫として生まれた鬼塚宏樹(主人公=私)は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のK市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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