小説
イオの末裔
〔Kindle版〕
販売開始しました。 |
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《内容》
教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆(鬼塚サヤ)の孫として生まれた鬼塚宏樹(主人公=私)は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のK市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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イオの末裔
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《内容》
教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆(鬼塚サヤ)の孫として生まれた鬼塚宏樹(主人公=私)は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のK市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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第二章 一世を風靡した錬金術師の活躍 |
オリーブ油を万能薬に変える奇跡 *ファン・ヘルモント
賢者の石には☆卑金属☆{ひ/きん/ぞく}を金に変成するだけでなく、あらゆる☆病☆{やまい}を癒し、不老不死をもたらすというパワーがある。
万病薬や不老不死の薬として利用する場合、賢者の石の粉末で作った丸薬や、賢者の石を液化してできる「生命の水」を直接服用するという方法が用いられる。
この場合、賢者の石そのものを飲んでしまうのだから、すべての病気が治り、永遠の若さが手に入るのはまったく当然のことといっていい。
しかし、それほど重くない病気を治すだけなら、なにも賢者の石そのものを飲んでしまう必要はないようだ。賢者の石を浸したオリーブ油の1滴とか、毎日1回、賢者の石のかけらをぺろっとなめるというだけでも、ちょっとした病気ならば治ってしまうようなのである。
17世紀初頭のベルギーの科学者ヤン・バプティスタ・ファン・ヘルモントがそんな体験談を記録している。
ファン・ヘルモントは空気以外にも気体があることを最初に発見し、私たちになじみの深い「ガス」という言葉を発明したことで、現代でもその業績が評価されている科学者である。とはいえ、高名な錬金術師パラケルススの門弟であり、彼自身にも錬金術師的な一面があったようだ。
そのころヴィルヴォルド城の牢獄で不思議な出来事があった。
獄につながれていたある修道士が重い病気で瀕死の状態になったのを、同じく囚人だったバトラーというアイルランド人があっという間に治してしまったのだ。しかも、その方法というのが変わっていた。バトラーはスプーン一杯のアーモンド牛乳に小さな石をほんのちょっとだけ浸け、その牛乳を修道士に飲ませただけなのである。
人々は驚き、すぐにも科学者のファン・ヘルモントに連絡してきた。
これをきっかけにファン・ヘルモントはバトラーと親しくなり、バトラーが獄を出てからも付き合いを続けた。そして彼は、バトラーの奇跡の技が人々の病気を治すのを、繰り返し自分の目で目撃することになったのである。
最初は、バトラーが獄を出てからまもなくのことだった。ファン・ヘルモントとバトラーは年老いた貧しい洗濯女にあった。彼女には持病があった。16歳のころからひどい偏頭痛に悩まされていたのだ。それを知ったバトラーはすぐにも胸のポケットから小石を取り出し、スプーン一杯のオリーブ油につけた。そして、小石を取り出したあとで、オリーブ油を小さな油ビンに入れ、「この油を1滴だけ頭に塗ってください」といって老婆に与えた。
老婆がそのとおりにすると、あっという間に痛みが消えてしまったのだ。
しかも、それは一時的なことではなかった。老婆はそれ以来ずっと偏頭痛に悩まされることがなくなったのである。
すると、びっくりしているファン・ヘルモントにバトラーがおかしそうにいった。
「友よ。もしわたしに時間を下さるなら、ただ一服で万病を治し、あなたがいつまでも若々しくいられる薬を作ることもできるんですよ」
ファン・ヘルモントはパラケルススの門弟であり、その秘法を学んでいたので、バトラーならばそれが可能だろうと確信したという。
さらに、こんなことがあった。
あるとき、ファン・ヘルモントの友人の1人で、ガラス☆溶鉱炉☆{よう/こう/ろ}の監督をしている男が肥満に苦しみ、「バトラーさんの力で何とかならないものだろうか?」と彼に相談を持ちかけてきたのだ。
これを聞いたバトラーは例の小石から一片を削り取り、それを男に与えた。
「毎朝1回だけ、舌先でほんのちょっとだけこのかけらをなめるようにしてください」
それから3週間後、ファン・ヘルモントはその友人と会って目を見張った。ついこの間まで肥満だった男の胸がすらりとしていて、どう見ても20センチ以上やせたことは確実だったからだ。
数カ月後、ファン・ヘルモントはさらにもう一度だけ、バトラーの奇跡の業を目撃することになった。
このころ、彼の妻は右腕の痛みと両足首の水腫に苦しんでいた。痛みのために右腕は上がらず、水腫のために両足はむくみ、指を突き立てると第二関節までずぶずぶと埋まってしまうほどだった。
これよりしばらく前に、ファン・ヘルモントはバトラーからこれまでと同じようにして作ったオリーブ油の☆小瓶☆{こ/びん}を譲り受けていたが、妻はその薬には見向きもしなかった。彼女は夫が信じている秘法を少しも信じていなかったのである。
だが、あるとき彼女は、友人の夫人たちが集まっている席で、自分の夫がどれほどつまらないことを信じているかを説明するために、バトラーの油を1滴だけ右腕に塗ってみたのである。
するとどうしたことか、たちまち右腕は昔どおりの力を取り戻し、自由に動かせるようになってしまったのだ。
もちろん、そこにいた誰もがびっくりしたが、一番驚いたのは妻自身だった。彼女はすぐにも両足首にも1滴ずつ垂らし、十分に引き伸ばした。すると、15分もたたぬうちに、両足の水腫まですっかり引いてしまったのである。
そして、今回もまた、決して一時的なことではなかった。ファン・ヘルモントの報告によれば、彼女の妻はそれから19年間経っても、相変わらず健康なままだったのである。
どうだろうか。賢者の石のパワーがいかに強烈であるか、よくわかる話なのではないだろうか。
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