小説
イオの末裔
〔Kindle版〕
販売開始しました。 |
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《内容》
教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆（鬼塚サヤ）の孫として生まれた鬼塚宏樹（主人公＝私）は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のＫ市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆（鬼塚サヤ）の孫として生まれた鬼塚宏樹（主人公＝私）は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のＫ市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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| 第四章 薔薇十字団の錬金術 |
ホムンクルス製造の物語 ＊ヴァレンティン・アンドレーエ『化学の結婚』
☆薔薇十字団☆｛ば/ら/じゅう/じ/だん｝の評判を爆発的に広めることになった初期の４つの薔薇十字文書のひとつ、『クリスチャン・ローゼンクロイツの化学の結婚１４５９年』（ヴァレンティン・アンドレーエ著、１６１６年刊）は、ただの小説として読んでも非常に面白い、神秘的で幻想的な錬金術小説である。
薔薇十字団の錬金術では、黄金製造はけっして主要な目的ではない。それよりも、神によって創造された宇宙の神秘を解明し、神を理解し、道徳的・精神的に完成された新しいタイプの人間を生み出すことが重要だとされる。
これを、比喩を用いて錬金術の具体的作業に置き換えれば、黄金製造などよりも、ホムンクルス（人造人間）の製造の方がはるかに重要だということになる。
アンドレーエの『化学の結婚』は、このことを直接的に小説のテーマとしており、主人公クリスチャン・ローゼンクロイツが様々な試練を経た後に、ついにホムンクルスの製造に立ち会う様子が描かれるのである。
この小説は錬金術や薔薇十字団に興味を持つ人にとって、必読の書といってよいものなので、長く複雑な物語ではあるが、ここでその概要を紹介することにしよう。
物語は、薔薇十字団の始祖、クリスチャン・ローゼンクロイツが81歳の復活祭（イースター）の前夜に始まる。この夜、天使が彼のもとを訪れ、「王の結婚式」への招待状をもたらした。ローゼンクロイツにとって、それは待ちに待った招待状だった。というのも、この日から７年前、彼にはっきりとした幻視が立ち現われ、いつの日にかこういうことが起こると予言されていたからだ。以来、彼はこの日を待ち続けていたのである。
とはいえ、それが現実となったいま、ローゼンクロイツははたして自分にその資格があるのかどうか不安になった。すると、その夜の夢が答えを与えてくれた。夢の中で、彼はまるで地獄を連想させるような深い井戸の中に大勢の人間とともに閉じ込められていたが、そこに井戸の上から７度、救いのロープが投げ込まれた。６度目、そのロープが左右にゆれて、偶然にも彼の目の前に近づいてきた。彼はそれにしがみつき、ついに暗い井戸から救い出された少数の人々の仲間に加わった。もちろん、この夢は彼が神に選ばれた人間であることを意味したのである。
２日目、ローゼンクロイツは僧房を出て、王の城を目指して旅立った。
やがて、森を抜けて緑の荒野に出ると、そこに３本のヒマラヤスギが立っていた。その１本に円盤がかけられており、４つの道が示されていた。
「短いが非常に危険な道」「安全だが長い道」「１０００人に１人も行くことのできない幸運者のための王道」「人間には不可能な道」の４つである。
これを見てローゼンクロイツは悩んだ。このとき、彼は１羽の白いハトを見つけたが、次の瞬間には黒いカラスが現われたので、ハトは逃げ出した。びっくりしたローゼンクロイツはすぐにも２羽の鳥の後を追いかけ、ハトを助けた。それから、その道を引き返そうとしたが、強い風が吹いて引き返すことができなかった。仕方なく、彼はその道を進んだが、そうするとやがて高い山の頂に美しい城館の正門が見えてきた。彼は２羽の鳥の導きで、正しい道を選んだのである。
こんないいかたをすると、いったいどの道が正しかったのかと質問されそうだが、物語はそれについてはっきりとは語っていない。多分、第二の道だったのではないかと想像できるのだが。
なんにしても、ローゼンクロイツはついに目的の城に着くことができたのである。
彼が城の前に到着したのは夕暮れ時だが、これは現世に闇が広がる時刻を意味していたという。
そこから、彼は３つの大門をくぐった。門には１人ずつ門番がおり、門を通過するたびに不思議な文字の記された黄金のメダルを彼に渡した。また、門にはそれぞれ円盤が張られており、「ふさわしからざる者はここを去れ」というような意味ありげな言葉が記されていた。
次ぎに城の☆侍童☆｛じ/どう｝が現われ、彼を食卓のある大広間に招じ入れた。そこには、彼と同じように招待されたらしい、大勢の客が集まっていた。これらの客の多くは尊大で、これまでに自分がどれほどすばらしい活躍をしてきたか、大声で自慢しあっていた。ローゼンクロイツは隅のほうの席に腰を下ろすと、黙ってその話を聞いていた。
そうこうするうち、美しい音楽が鳴り響き、数千の灯火の行列に守られて、１人の美しい処女が現われた。彼女は広間の中央でみなに挨拶したが、その内容は簡単に言えば、「王の結婚式にふさわしいと自信のある者だけ、明日行われる魂の計量に参加しなさい。そうでない者はここに残りなさい」というものだった。
客たちの大部分は、すぐにも参加を表明し、灯火に案内されてそれぞれの個室に向かった。自分に自信のない９人だけが広間に残ったが、ローゼンクロイツもその中のひとりだった。
間もなく、何人かの侍童が現われ、広間に残った９人を☆縄☆｛なわ｝で☆縛☆｛しば｝り、灯火を持ち去った。広間は真っ暗になった。ローゼンクロイツはおおいに不安だったが、疲れていたので眠りに落ちた。そして不思議な夢を見た。大きな谷間に大勢の人々が糸で吊り下げられており、空飛ぶ老人がその糸をはさみで切っていた。高く吊り上げられている者ほど被害が大きく、低い者ほど被害が少ないのである。
３日目、広間で魂の計量が行われた。これに先立ち、ローゼンクロイツら縄で縛られていた９人は縄を解かれ、特別席でその様子を見学した。
計量は広間の中央の☆天秤☆｛てん/びん｝で行われた。秤｛はかり｝の一方に客が乗り、もう一方に☆分銅☆｛ふん/どう｝が載せられた。分銅は７つあり、それぞれ信仰、慈愛、融和、純潔、忍耐、謙譲、節制に対応していた。だが、合格者は驚くほど少なかった。そして、不合格者は囚人として引っ立てられてしまった。
最後に、ローゼンクロイツら９人の計量も行われたが、どういうわけか彼はいとも簡単に合格してしまった。
試験が終わると、合格者に翼のある☆獅子☆｛し/し｝の絵がついた金羊毛皮が与えられた。「翼のある獅子（グリフィン）」は宝の番人とされる怪物、「金羊毛皮」はギリシア神話に起源を持つ錬金術の達人の象徴である。このとき、侍童が語ったところによると、これによってローゼンクロイツらは特別な結社への入会を許可されたのだという。
４日目、目覚めたローゼンクロイツは他の合格者たちとともにヘルメス（メルクリウス＝☆水銀☆｛すい/ぎん｝）の泉で身体を洗い、黄金の杯で泉水を飲んだ。
さらに、３６５段の☆螺旋☆｛ら/せん｝階段を登った最上階の王室で王と王妃など６人の王族に拝謁｛はい/えつ｝した後、広間に案内され、そこで次のような喜劇の上演を観ることになった。
あるとき年老いた王の前に小さな箱が置かれ、それが河で見つかったという報告がなされた。開けると、箱の中にまだ幼くきれいな少女が寝ており、宝石と手紙が入っていた。その手紙から、その少女は実は老王の☆従姉妹☆｛いとこ｝の娘だとわかった。従姉妹の王国にモール人の王が侵入し、国王一族を皆殺しにしたが、その少女だけが助かったのである。老王はいずれは自分の息子と結婚させようと決意し、少女を養育させた。同時にモール人との戦争の準備を整えた。ところが、悪知恵の働くモール人の王は策を用いて、少女を誘拐するのに成功した。老王はすぐにも大軍を召集し、モール人の国を襲い、少女を救出した。さらに、老王は少女のために彼女の王国を再建してやり、王子との婚約の誓いを結ばせた。
だが、少女にはかなりふしだらなところがあった。モール人はここに目をつけ、すぐにもやってくると彼女を誘惑し、まんまとその財産を手に入れてしまった。そして、モール人は公衆の前で少女を裸で柱に縛り付けて☆鞭打☆｛むち/う｝たせ、死刑を宣告した。
事実を知った王子は決闘によってモール人を殺した。王子自身も殺されたかと見えたが、すぐに復活し、少女を救出した。王子は救出した少女を自分の宮廷長と宮廷牧師にあずけた。ところが、この２人も次々と少女を虐待｛ぎゃく/たい｝した。そこで、王子は再び彼女を救い出し、ついに王子と少女の婚礼が執り行われることになったのである。
喜劇が終わるころにはすでに夕刻が迫っていたが、劇の後にも広間では驚くべきことが起こった。突然、広間全体が黒尽くめに模様替えされると、先に拝謁した６人の王族の首が切り落とされ、細長い箱の中に納められたのだ。驚いて見ていると、美しい処女がみなに向かってこういった。
「この方たちの生命は、あなた方の手でよみがえることになるでしょう」
５日目、いつもより早く起き出したローゼンクロイツは城内を見学したくなり、侍童に頼んで城の地下を案内してもらった。やがて２人は巨大なガーネットに照らされたアーチ型天上の広間に到着した。そこに三角形の祭壇があり、そこからさらに地下深くへ続く階段を降りると、華麗なベッドの上に全裸のヴィーナスが横たわっていた。そこは、女神ヴィーナスの墓だったのだ。この直後、ローゼンクロイツは城のキューピッドに見つかり、罰として手の甲を矢でちくりと刺された。
こうしたことがあった後、ローゼンクロイツは他の仲間たちとともに７艘の舟に分乗させれら、海に浮かぶ四角い島に連れて行かれた。そこにはオリュンポスの塔があった。この塔は、真ん中の背の高い塔を６つの塔が取り囲むような構造で、そのどれもが７階建てだった。
島に着くと、ローゼンクロイツたちはすぐに塔の１階の工房に案内され、王族たちを復活させるための予備作業に従事させられた。これは薬草や宝石など、あらゆる物質を洗浄し、エキスを抽出し、それをガラス☆瓶☆｛びん｝に詰める作業だった。
６日目、ローゼンクロイツたちはさらに王族復活のための作業に従事させられた。これらの作業はそのレベルごとに、塔の階を上に登って行われた。その内容は次のようなものだった。
２階では、大釜の中で湯を煮立て、それを注いで王族の死体を溶かす作業が行われた。大釜の湯の中にはなぜかムーア人の頭が入っている。王族の死体は溶けると赤い液体となり、それは黄金の球体に流し込まれた。
３階では、広間の中央に先ほどの黄金の球体が天上から吊り下げられ、それが太陽光で熱せられた。その階は周囲が窓ばかりで、さらに数多くの鏡が光学的に配置されており、太陽光が集められて、球体を熱するような仕組みになっているのである。球体が太陽と同じように真っ白に熱せられたところで、窓が閉められ、球体が冷却された。それから球体を開けると、中から真っ白な卵が出てきた。
４階では卵の人工ふ化が行われた。黄色い砂の入った巨大な銅釜を火で熱し、その砂の中に卵を埋め込んで完熟させるのである。作業が済むと、卵の中から血まみれの醜い鳥が生まれてきた。鳥はすぐに成長し、羽の色が黒から白へ、最後には見たこともないほど美しい色になった。どうやら不死鳥（フェニックス）らしい。
５階には大釜の鳥風呂があった。その大釜に入ると鳥の羽毛はすっかり抜け落ちた。そこで鳥を大釜から出し、羽毛の入った大釜をさらに熱し続けると、水分が蒸発し、最後に青い石が残った。みなはその石を粉末にし、鳥の首から下の身体に塗りつけた。
６階では再生の象徴である蛇の血を鳥に飲ませた後、鳥の首を断ち切る作業が行われた。首を切られた鳥の体は火で焼かれ、その灰が小さな箱に集められた。
ここで、ローゼンクロイツを含む少数の選ばれた者だけが、仕事が遅い駄目な者という理由で、他の仲間から引き離された。これから他の仲間たちは７階の広間で黄金製造を行うことになるのだが、ローゼンクロイツたちは７階の別の部屋で、ホムンクルスの製造に参加することになるのである。
７階におけるホムンクルス製造は、鳥の灰を水に混ぜてかゆ状に煮立てることから始まった。出来上がったところで、その物質を☆鋳物☆｛い/もの｝の☆雛形☆｛ひな/がた｝に注ぎ込み、冷却した。それから雛形を開けると、そこから男の子と女の子の透明な２体の人形が出てきた。この２人はまだ生命はなかったが、触った感じは人間のようだった。そのうえ、２人はどんどん成長し、体が大きくなった。次に２人の身体をテーブルの上に移し、ある儀式が行われた。すると、天井の穴から不思議な一条の光がぱっと差し込み、それが２人の体の中に入り込んだ。同時に２人がぱちりと目を開いた。これこそ死んだ王族から再生されたホムンクルスであり、新しい時代を担うべき若い王と王妃だったのである。
７日目、朝のうちにローゼンクロイツとその仲間たちは「黄金の石の騎士」に任命された。それから全員が12艘の舟に分乗して城に戻り、新しい王と王妃の婚礼が厳｛おごそ｝かに執り行われた。そのときの様子から新しい王がローゼンクロイツのことをおおいに気に入っていることがわかった。
ここから、この小説の最終部分が始まるのだが、その終わり方はとても奇妙なものになっている。ローゼンクロイツは、５日目にヴィーナスの裸体をのぞき見てしまったが、実はそれはとてつもなく大きな罪だったのだ。最後の最後になってその罪が露見したため、彼には残りの一生涯を城の第一の門の門番として暮らすという罰が与えられたのである。
幸いなことに、ローゼンクロイツはその罪を許されて故郷に帰ることができたと小説は語っているが、その理由は説明されていない。ただ、物語の最後の部分に「２ページの欠落」があると語られているだけである。
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