小説
イオの末裔
〔Kindle版〕
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《内容》
教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆（鬼塚サヤ）の孫として生まれた鬼塚宏樹（主人公＝私）は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のＫ市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆（鬼塚サヤ）の孫として生まれた鬼塚宏樹（主人公＝私）は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のＫ市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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| 第二章 一世を風靡した錬金術師の活躍 |
医師としても業績を残した革新児 ＊パラケルスス
パレケルススは錬金術を医学の分野に応用し、革新的な業績を残した錬金術師である。その意味では、ただの錬金術師とはかなり違っている。
パラケルススもまた多くの錬金術師と同じように、☆鉛☆｛なまり｝や鉄などの☆卑金属☆｛ひ/きん/ぞく｝を黄金に変えることは可能だと考えていた。しかし、彼にとって、それは錬金術の主要な目的ではなかった。パラケルススは錬金術によって、鉱物から病気の治療に役立つ優れた医薬品を作り出そうとした。つまり、今日の“医療化学”と呼ばれるものを始めたのだ。
とはいえ、パラケルススはあまりにも強烈な個性の持ち主だったため、当時の支配階級の人々とうまくやっていくことができず、さらに放浪癖もあったので、まるでファウスト博士のように、生涯のほとんどを放浪のうちに暮らした。そして、ファウスト博士がそうだったように、数多くの民間伝説を残した。
パラケルススは、本名はテオフラストゥス・ボムバストゥス・フォン・ホーエンハイムという名で、１４９３年にスイスのアインジーデルンに生まれた。父はシュワーベンの騎士団に所属するボンバストゥス家出身の医師ウィルヘルム・フォン・ホーエンハイム、母は修道院直属の隷民｛れい/みん｝だった。
「パラケルスス」というのは自称であり、35歳くらいからそう称したという。
この〝Paracelsus〟という名については、彼の姓である〝von Hohenheim〟をギリシア・ラテン風にしゃれた言い方にしたのだとも、「ケルススより偉大である」という意味が込められているのだともいわれている。多分、両方の意味があったのだろう。ケルススというのは、ヒッポクラテスやガレノスと並び称される古代の偉大な医師であり、パラケルススはこの名前自体によって、自分はこれらの偉大な医師たちよりさらに偉大であるといっていたわけだ。これだけでも、彼がファウスト博士と同じように、大言壮語｛たい/げん/そう/ご｝の人だったことがよくわかる。
少年時代のパラケルススは、母が出産後間もなく死亡したために、父の手で育てられた。そして、この父から医学と錬金術の手ほどきを受けた。
１５１４年にはティロール地方のジークムント・フューガーの鉱山と☆冶金☆｛や/きん｝工場で１年間働いた。このフューガーも錬金術師だったので、パラケルススはここで錬金術の知識を広げ、さらに貴金属に関する知識も身につけた。
フューガーから学べるだけ学んだパラケルススは、これから10年以上にわたる放浪の旅に出た。ヨーロッパの中心的な国々はもちろん、スカンディナビア、ロシア、小アジアまでも訪れた大放浪である。
大放浪の終わりごろには、イタリアに長期間滞在し、フェルラーラ大学で医学の学位も取得している。
この大放浪時代に、パラケルススは医師や錬金術師だけでなく、黒魔術師、占星術師、鉱夫、さらに賤民やジプシーとも付き合い、あらゆる知識を身につけた。この結果、パラケルススはまさに奇跡の医師へと成長を遂げたのである。
１５２６年、パラケルススはドイツのシュトラスブルクの市民権を得て医師として開業するが、それから間もなくこんなことがあった。
スイスのバーゼルに住む裕福な印刷業者ヨゼフ・フローベンは慢性病に苦しんでいたが、現地の医者たちがいくら治療してもまったく治る気配がなかった。そのフローベンの耳に、シュトラスブルクで開業したばかりのパラケルススの評判が届いた。フローベンはすぐにパラケルススを呼び寄せた。すると、パラケルススはフローベンの病気をあっという間に完全に治してしまったのだ。
フローベンは大喜びで、パラケルススの名医ぶりを友人たちに宣伝した。フローベンは金持ちだったので、その友人には当時一流の知識人や大学教授も多かった。そして、パラケルススはバーゼル市の市医および医学教授という地位を手に入れたのである。
ところが、この直後にパラケルススの取った行動は、まさにファウスト博士と見まごうようなとんでもないものだった。
パラケルススは当時の医師たちが最も信頼していた伝統的医学の権威たちが書いた書物を公開の場で焼き払い、その信奉者たちをペテン師呼ばわりしたのだ。講義の中でも、ラテン語でなくドイツ語を使い、当時最も一般的だった薬草による治療をこきおろし、鉱物から作った医薬の力を褒め上げたりした。
こんなパラケルススを信奉する者もいたが、医師や薬剤師たちはみなパラケルススを非難した。すると、パラケルススはそんな人々を信奉者と一緒になって罵倒したのである。しかも、パラケルススはいつも酔っ払っていた。
市当局は、パラケルススを任用した責任者である手前、当初は彼を擁護した。とはいえ、事態は悪化した。
あるとき、バーゼルの有力市民だったコルネリウス・フォン・リヒテンフェルスが病気になり、病気を治した医師に１００グルデン報酬を支払うと申し出た。パラケルススはこれを引き受け、たった１回往診し、数粒の丸薬を与えただけで完全に治してしまった。すると、リヒテンフェルスはこんな簡単に治せたのだからという理由で、たった６グルデンしか支払わなかった。
パラケルススは腹を立て、当然、自分に有利と思って裁判所に訴えた。だが、結果は敗訴。彼は怒りのあまり、裁判官を罵倒した。これが法廷侮辱罪となり、厳しく罰せられそうになるや、パラケルススはさっさとバーゼルから逃げ出した。
それから、パラケルススは再び放浪の生活に入り、この生活は１５４１年にドイツのザルツブルクで死ぬまで続いた。
とはいえ、この第二の放浪生活の間に、パラケルススはおびただしい量の書物を執筆した。これらの書物はほとんどが医学書だったが、その中でパラケルススはそれまでになかった新しい錬金術の理論を展開した。これによって、パラケルススは医学と錬金術の両分野に大きな影響を与えることになったのだ。
こうして見てくると、パラケルススは優れた錬金術師であったことはもちろんだが、それ以上に優れた医師だったように見える。
だが、それは現在よく知られている確かな資料からパラケルススの経歴を紹介したからで、当時の一般の民衆にとっては、パラケルススはまったく別な存在だと思われていたふしがある。ヨーロッパ各地に残されたパラケルスス伝説が、そのことをはっきりと証明している。
ここでいくつか紹介しておこう。
いつのことかはわからない。とにかくパラケルススが放浪していた時代のことだ。
ある日曜日、パラケルススがインスブルク郊外の森を散歩していると、どこからか彼の名を呼ぶ声がした。「誰だ？」と問うと、その声が答えた。
「私だ。このモミの木の実の中に閉じ込められているのだ。頼むから出してくれ」
見ると、すぐそばの大きなモミの木に、３つの十字架で封印された実があった。
パラケルススはすぐに、そこに悪魔が閉じ込められていることを理解すると、いくつか条件を出した。
「そうだな。どんな病気も治せる万能薬と、すべてのものを黄金に変えられる秘薬をもらえるなら、出してやろう」
悪魔はもちろんこの条件を飲んだ。そこで、パラケルススがメスでモミの実を裂くと、そこから一匹のクモが這い出してきた。そして、地面の上にぽとりと落ちたと思った瞬間、目の前に悪魔が立っていたのである。
こうして、パラケルススは悪魔から万能薬と黄金製造薬を手に入れたのだが、知恵のあるパラケルススはそのまま悪魔を解放したりはしなかった。
このとき悪魔は自分を封じ込めた悪魔祓い師に復讐しようと考え、このたくらみにパラケルススを誘ったのだが、これを聞いた彼はすぐにもこういった。
「悪魔祓い師はおまえを小さな穴の中に押し込んでしまうほどの力のある男だ。しかし、おまえは自分の力では小さなクモに変身して、この小さな穴の中にもぐりこむことなどできないだろう」
すると、悪魔は小さなクモに変身し、再びモミの実の穴の中にもぐりこんだ。そこでパラケルススはさっさとその穴にふたをし、十字架を刻んで封印した。
こうして、パラケルススは悪魔をだまし、万能薬と黄金製造薬だけをうまうまと手に入れることができたのだという。
もうひとつ、こんな話もある。
そのころ、ウィーンに「黒鷲亭｛くろ/わし/てい｝」という☆旅籠☆｛はたご｝があった。ある夜のこと、その主人の息子が若い女中といちゃついていると、それを見つけた主人が女中を追い出そうとした。偶然にもその場にやってきたパラケルススは、若い２人を弁護した。
これに主人が腹を立てた。パラケルススはその旅籠の常連だったが、これまで一度も代金を払ったことがなかったからだ。主人はいった。
「そんなことをいうなら、これまでのツケをすべて払ってもらいたいものだ」
仕方なく、パラケルススは懐から銅の小銭を取り出して、主人に渡した。すると、主人は小銭を床にたたきつけ、「この小銭が金貨に変わったら、この小娘を息子の嫁にしてやろう」とのたまわった。
「では、小銭を拾ってみろ」とパラケルススは応じた。
すると驚くことに、主人が拾い上げた小銭は本物の金貨に変わっていたのだ。
この噂はすぐに広まり、それからというもの旅籠は大繁盛となった。そして、「黒鷲亭」は「小銭接吻亭」と呼ばれるようになったという。
どうだろうか。このような伝説を知れば、その当時の一般民衆にとって、パラケルススはたんに優れた医師ではなく、驚くべき錬金術師であり、魔術師だと思われていたことがよくわかるだろう。
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教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆（鬼塚サヤ）の孫として生まれた鬼塚宏樹（主人公＝私）は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のＫ市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。 |
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