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錬金術師の話
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イオの末裔
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 教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆(鬼塚サヤ)の孫として生まれた鬼塚宏樹(主人公=私)は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のK市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。

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第二章 一世を風靡した錬金術師の活躍

歴史から消された悪魔の友 *ヨーハン・ゲオルク・ファウスト博士


 ヨーハン・ゲオルク・ファウスト博士は不幸な錬金術師の代表である。ある意味、ニコラ・フラメルと正反対の錬金術師といっていい。

 では、どんなふうに不幸なのか? もちろん、それが一番の問題である。何しろ、錬金術師といえば、少なくともはた目にはどうしようもなく不幸だった者が多いので、ただたんに貧乏だったとか、権力者の☆拷問☆{ごう/もん}で殺されたとかいうのは、こんなことをいっては何だが、不幸のタイプとしてはけっこうありきたりである。

 ファウスト博士の〝不幸〟が、その手のものでなかったことはいうまでもない。
 実は、ファウスト博士は16世紀初めころのドイツで、最も優れた錬金術師の1人だった。その名声は高名なパラケルススに匹敵した、といってもいいくらだ。
 ところが、そんな有名だったにもかかわらず、彼が死んだ直後から、ファウスト博士がこの世に実在していたことを示す数々の証拠が、キリスト教の聖職者たちや迫害を恐れる人たちの手で、次から次と、ほとんどすべて消し去られてしまったのだ。
 そのやり方は、とにかく徹底したものだった。ファウスト博士自身が書いた著作や手紙は完全に、何から何まで燃やされた。ファウスト博士が存在したことを示す、役所や大学の書類も破棄された。他の人物が書いた文章の中にファウスト博士の痕跡{こん/せき}がある場合も同様だった。書物の中にファウスト博士に関する記述がある場合、その部分だけ削り取るのでは不自然だから、1ページ丸ごと書き直すという作業が行われたほどだった。
 こうして、ファウスト博士はついに、いまだかつてこの世に実在したことのない錬金術師ということにされてしまったのである。

 こんなわけで、実在のファウスト博士について、はっきりとこういう錬金術師だったと説明できる資料はまったくといっていいほど残っていない。
 だとしたら、そんな錬金術師の話がどうしてわかるのか、と読者のみなさんは思うにちがいない。
 そこがファウスト博士のすごいところだ。ファウスト博士はあまりに強烈な錬金術師であり、かつ旅する魔術師だったので、ドイツやその周辺の民衆の間に数多くの伝説を残した。
 16世紀も終わりごろになって、これらの伝説が本にまとめられるようになった。伝説は山ほどあったので、本のほうもいろいろなヴァリエーションがあった。
 もちろん、こうした本にはファウスト博士のいいところは少しも書かれていなかった。いわく、ファウスト博士は大酒飲みのインチキ魔術師で、民衆の心を惑わした。そればかりか、悪魔と契約さえ結んだ。その結果、目を覆いたくなるほど悲惨な最期を遂げたどうしようもない人物である。みなさんは絶対にそんな人になってはいけない。という話で、一般に〝ファウスト伝説〟といわれるものである。
 しかも、この種の本が作られたころには、ファウスト博士が実際に存在したのかどうか誰にもわからなくなっており、登場人物であるファウスト博士はあくまでも伝説の中にだけ存在する人物となってしまったのである。
 とはいえ、ここにはファウスト博士の荒唐無稽{こう/とう/む/けい}な冒険譚{たん}や魔法の数々が面白おかしく語られていたので、ドイツ民衆には非常な人気があった。
 有名な文豪ゲーテも子供のころに夢中になってこの本を読んだ。そして、滑稽で誰からも馬鹿にされるようなファウスト博士から、まったく新しい、自由な人間精神に目覚めた英雄としてのファウスト博士を作り上げた。世界的大文学『ファウスト』に登場するファウスト博士がそれである。

 このように、ファウスト博士の伝説はたくさんあった。それが幸いだった。これら数多いファウスト伝説と、幸運にも抹殺{まっ/さつ}をまぬがれた、まるで破片のような証拠類の数々をとおして、ハンスヨルク・マウスという人が『悪魔の友 ファウスト博士の真実』(1980)という本を書き、実在したファウスト博士の姿を生き生きと再構成したのだ。
 ここで、この本を参考に、ファウスト博士という歴史上の錬金術師が、一体どういう理由で歴史から消されることになってしまったか、その辺の事情を紹介しておくことにしよう。

 この本によると、ファウスト博士はシュバルツバルト(黒森)とオーデンバルトの間にある、小さな町クニットリンゲンで1478年に生まれた。私生児だったが、父親は金持ちだったので、子供のころから立派な教育を受けることができた。幸運なことに、ファウスト自身にも並外れた才能があった。
 ファウストは地元のラテン語学校で学んだ後、ハイデルベルクの大学に進み、神学を学んだ。
 続いて、ファウストはポーランドのクラクフの大学へ進んだが、このことからマウスは、このころのファウストが魔術の道へ進もうとしていたと推理している。当時のヨーロッパの大学では、キリスト教の力が強かったため、魔術を正統な学問として教えることが許されなかった。だが、ポーランドの国王は魔術の巨匠を大切に保護したため、クラクフの大学では魔術が真面目な学問として教えられていたからだ。つまり、クラクフこそ、当時のヨーロッパの魔術の中心地だったのだ。
 こうして、ファウストは魔術の大家へと成長した。
 ここで、魔術といっているのは、①☆巫☆{ふ}術(シャーマニズム)、②錬金術、③占星術の3つの学問のことで、ファウストはこれらすべてにおいて卓越{たく/えつ}していた。また、ファウストは医師としても一流になった。優れた錬金術師パラケルススが一流の医師だったのと同じ理屈だ。

 ファウストが優れた魔術師で、医師だったことには、もちろんいくつもの証拠がある。

 ずっと後のことだが、ファウストはフランス国王フランソワ1世に招かれて宮廷の侍医となり、国王の病気の進行を食い止めるという立派な働きをしている。これだけでも、ファウストが当時最高の医者のひとりだったことがわかる。ちなみに、このときの彼の前任者は有名な魔術師のアグリッパ・フォン・ネッテスハイムである。
 占星術に関しては、ファウストははっきり証拠が残っているものだけでも二度、難しい予言を的中させている。占星術というのは、たんに学問的な知識が必要なだけでなく、予言を的中させるにはそれ相当の優れた感覚が必要なので、この点でもファウストが才能に恵まれていたことがわかる。
 最後に、みなさんの興味の中心である錬金術だが、マウスによればファウストにとっても興味の中心は錬金術だったという。残念なことに、ファウストが黄金変成に成功したという話はないのだが、このことだけから彼が二流の錬金術師だったということにはならない。実際、ファウストは錬金術に取り組んでいたし、彼の人生最後の職業も、シュタウフェン伯爵のお抱え錬金術師というものだった。また、長い旅の途中、ファウストはしばしば「わたしはありとあらゆる錬金術に通じた達人だ」と豪語したことがあった。こうしたことから、ファウストが錬金術においても第一級の人物だったことが予想できるのだ。
 話を元に戻そう。
 クラクフの大学で魔術を学んだファウストはさらにエルフルトの大学へ進み、ここで修士号を得ている。1505年のことだという。
 修士号を得たというのはとても大切なことである。数年後にはファウストは博士号まで取得するのだが、当時の感覚では博士というのは超一級の知識人を意味していた。ただたんに幸福な人生を送るだけなら、修士だけでも十分な資格だったのである。
 そんなわけで、錬金術師ファウストの人生は、少なくともその滑り出しにおいては人並み以上にうまくいっていたといっていいのである。
 しかし、いつまでも順風満帆{じゅん/ぷう/まん/ぱん}というわけにはいかなかった。いや、それどころかファウストの運勢は徐々にはっきりと傾き始め、ついには流れ者の魔術師、錬金術師という身分にまで身を落としてしまうのである。

 では、いったい何が彼の人生を狂わせたのか。その最大の原因は、ファウストが自分が超一級の錬金術師であり魔術師であることを少しも隠さないばかりか、むしろそれをいかにも大げさに吹聴したことにあったといえそうだ。彼は大酒飲みだったので、酒に酔った勢いで、人々を喜ばせるために驚くべき魔術を披露することもしばしばだった。ファウストにしてみれば、それは一種の宣伝活動で、そうすることで星占いや医者としての副業でお金を稼げるという利点もあったのだが、なんといってもキリスト教の社会である。ファウストの振る舞いをよく思わない人々も多かった。トリテミウスはその代表といっていいかもしれない。

 ファウストがエルフルトで修士号を取得した直後のことだ。希望に燃えるファウストが社会的に安定した地位を望むのは当然のことだったが、そのためには何としても有力なコネが必要だった。そこで、彼はすぐにも一流の人物と知り合いになるために努力し始めた。人と知り合うにはいろいろな地方から大勢の人が集まる場所が有利だったので、ファウストはゲルンハウゼン市を訪れた。
 ここで彼が知り合うことになったのが有名なヨハネス・トリテミウスだった。トリテミウスは、現在もある種の☆隠秘☆{いん/ぴ}主義者(オカルティスト)として魔法関係の書物などにしばしば取り上げられるが、当時のヨーロッパでは一流の知識人として知られていた。
 だが、この出会いは失敗に終わった。ファウストは完全にトリテミウスに嫌われてしまったのだ。
 この嫌悪がいかに激しいものだったか、トリテミウスからヨハンネス・ヴィルドゥンクという人物にあてた手紙にはっきりとうかがえる。このヴィルドゥンクなる人物はファルツ選帝侯のお抱え錬金術師であり、非常に優れた数学者として当時有名な人物だった。そして、トリテミウスとの出会いに失敗したファウストは、今度はハスフルト市に住むヴィルドゥンクのもとを訪ねようとしていた。
 このヴィルドゥンクにあてた手紙の中で、トリテミウスはファウストの人物について、ほとんど感情的といってもいいほどの罵詈雑言{ば/り/ぞう/ごん}を浴びせているのだ。
 「……ゲオルク・サベリスク(ファウスト)なる人物は、浮浪者でくだらぬおしゃべりをするいかさま師、ごろつきにすぎない、今後さらにおおっぴらに聖なる教会に敵対的ないまわしいことがらを吹聴{ふい/ちょう}することがないよう、☆鞭打☆{むち/う}ちの刑に処してしかるべきである。なぜなら、彼が自称している肩書きは、彼が馬鹿者であってけっして哲学者でないことを明らかにする愚劣かつ無意味そのものの精神の持主を表す以外のなにものでもないからだ。さらに彼は、おのれに適合する肩書きとして次のように列挙している。修士ゲオルク・サベリスク、すなわち若いファウストは巫術師の元祖、占星術師、さながら魔術師であり、手相、空相、土相も見るし水相見の心得もあるという――彼がいかに愚かで不遜であるかがわかるだろう。」(金森誠也訳)という具合である。
 これについて、マウスは次のように推測している。トリテミウスは当時、皇帝や王侯にさえ多大な影響力を持つ人物だったが、それは彼が自分の名声を保つための技術に優れていたからで、実際にはそれほどの人物ではなかった。これに対し、ファウストは修士号を得たばかりのまだ若い学徒だったが、達人といってよいほど魔術に通じており、豊かな才能に恵まれていた。そして、ファウストはトリテミウスと会ったことで、トリテミウスの無知を見抜いてしまった。トリテミウスは驚き、かつ不安になった。もしファウストが社会的に重要な地位にまで昇ったとすれば、そのときには自分の化けの皮がはがされてしまうと考えたからではないか、と。
 確かに、そういう面もあったかもしれない。だが、仮にそうだったとしても、ファウストの言動の中に、トリテミウスを激怒させるような尊大不遜{そん/だい/ふ/そん}さ、大言壮語{たい/げん/そう/ご}の傾向があったことは否定できないだろう。
 こうして、ファウストは人生最初の就職のチャンスをものの見事に棒に振ってしまったのである。

 だが、若いファウストはまだ人生に希望を持っていた。ファウストはあらためてハイデルベルク大学に進むと、ここで博士号を取得した。1509年のことである。
 マウスによれば、そのころの「博士」は今日とは比較にならないほど高い称号だったという。博士の称号を得た者は、生涯母校の大学の最高機関である評議会の一員となり、学長選挙や教授の任命、試験官の構成に発言権を持ったからだ。
 こんなわけで、もしファウストにその気があれば、彼にはまだまだ大いなる可能性があったわけだ。事実、ファウストはその数年後、エルフルト大学で教職についている。
 しかし、ファウストの性癖は変わらなかった。
 伝説によれば、大学でのファウストはギリシアの古典文学などを講義したようだが、ただ講義するのではなく、不可思議な魔術を使い、古代神話の一つ目巨人を講堂の中に出現させたりしたという。もちろん、これは伝説なので、まったくそのとおりのことをしたかどうかはわからないが、今なら自然科学的に説明できる方法で、何か不可思議な現象を起こして見せたことは確かといっていいだろう。
 そのうえ、ファウストは錬金術のためなら、平然と教職を投げ出してしまうところがあった。
 1516年から数年間、ファウストが教職を離れたのもそのためといってよかった。この間、ファウストはマウルブロンの修道院長ヨーハン・エンテンフスと一緒に賢者の石の製造に熱中していたのである。
 残念なことに、実験はどうやら失敗したらしく、ファウストは再び教職に戻るのだが、大学当局内におけるファウストの評判は悪くなる一方だった。
 そして、1524年、ファウストは悪魔と提携しているという理由でエルフルトから追放されてしまったのである。

 これ以降も、ファウストは各地を渡り歩いて安定した職を求めたが、うまくいかなかった。といって、当分の間は生活に困るということもなかった。聖職者や大学の評議会員などには人気のなかったファウストだが、一般人の間では非常に人気があった。自分が神にも匹敵する偉大な魔術師だと大言壮語し、しばしば面白い魔術を披露して見せたからだ。このおかげで、彼は占星術師、医師として十分なお金を稼ぐこともできた。だから、流れ者の錬金術師といっても、このころのファウストは1人の従者と、1人か2人の助手を引き連れ、馬に乗り、時には馬車で、威風堂々と旅をしていたという。助手の1人は、もちろんゲーテの『ファウスト』にも登場するヴァーグナーだったといわれている。
 しかし、年齢とともに華やいだ生活は遠ざかっていった。
 1528年から31年まで、ファウストはフランソワ1世の宮廷に招かれ、十分な報酬を手に入れたが、それから後はろくなことはなかった。
 1532年、ニュルンベルクを訪れたときは、ファウストは即座に市当局から退去命令を受けた。もちろん、悪魔と提携した魔術師という評判のせいだった。

 1540年ころには、ファウストは完全に落ちぶれていた。このころ、シュタウフェンという小さな町にやってきたファウストは、面白い手品で客を呼び、つまらぬ薬品類を売りさばく行商人をしていたという。
 ところが、事ここに至って、ファウストに再び運がめぐってきたように見えた。近くに住むフォン・シュタウフェン男爵が落ちぶれたファウストを見つけ、黄金製造を依頼してきたからだ。そのために必要な資金も、宿屋も男爵が手配してくれた。
 こうして、年老いたファウストは曲がりなりにもお抱え錬金術師としての生活を始めることになったのである。
 しかし、一度ファウストを見放した運は、二度とファウストに微笑むことはなかった。
 ある夜、ファウストがいつものように宿屋の2階で黄金変成に取り組んでいたときのことだ。どうしたはずみか、☆錬金炉☆{れん/きん/ろ}の中の物質が大爆発を起こしたのである。それはすまじい爆発で、窓もドアも吹き飛んだ。もちろん、ファウスト博士の身体も。
 この事件に人々は大騒ぎになった。
 それにしても、どうしてこんな恐ろしいことが起こったのか。人々は考え、当然のようにひとつの答えを見つけ出した。
 契約期限が切れたので、悪魔がファウスト博士を連れ去ったのだ、と。
 これまでも、ファウスト博士が悪魔と提携しているという評判はあったが、この事件によってそれが事実だったことが証明されたのである。
 そして、この考えはかつてファウストと関係を持ったことのある多くの人々にパニックを引き起こした。もし、そのことが知られれば、その人物もまた悪魔と関係があったのではないかと疑われる可能性があったからだ。
 そこで、そんな人々がまず第一に取り掛かった作業というのが、ファウストに関する記録を抹殺してしまうことだった。
 こうして、ファウストに関するほとんどあらゆる記録が、この地上から失われることになったのである。

 優れた錬金術師であると人に知られることはしばしば恐ろしい結果を招くが、ファウスト博士の場合は、まさに、その最も極端な例といっていいのではないだろうか。 
 錬金術師の話 目次
 第一章 これだけでわかる錬金術の基礎

究極の目的―賢者の石
古代の神話や信仰にはぐくまれた錬金術
黄金変成を保証する四大元素の理論
錬金術の三種の神器――硫黄、水銀、塩

第二章 一世を風靡した錬金術師の活躍

錬金術の始祖とエメラルド板 *ヘルメス・トリスメギストス
黄金と不死を手にした最も幸福な男 *ニコラ・フラメル
コスモポリタンと呼ばれた快男児 *アレクサンダー・セトン
他人が作った賢者の石で名を上げた男 *ミカエル・センディヴォギウス
失敗に失敗を重ねた苦労人 *ドニ・ザシェール
誰にもいえない職業上の苦労 * トマス・チャーノック
オリーブ油を万能薬に変える奇跡 *ファン・ヘルモント
〝死ねない男〟といわれた奇跡の怪人物 *サン・ジェルマン伯爵
一世を風靡した大ペテン師!? *アレッサンドロ・カリオストロ伯爵
歴史から消された悪魔の友 *ヨーハン・ゲオルク・ファウスト博士
医師としても業績を残した革新児 *パラケルスス

第三章 伝説や物語に見る錬金術の魅力

見果てぬ夢を追うための嘘 *メレシコーフスキー『レオナルド・ダ・ヴィンチ』
不老不死薬の実験台にされた娘 *チャペック『マクロプロス事件』
人造人間ホムンクルスの冒険 *ゲーテ『ファウスト』
人造人間ゴーレムと言葉の錬金術 *ユダヤの伝承
600年の呪いを生きた魔道師の物語 *ラヴクラフト『錬金術師』

第四章 薔薇十字団の錬金術

秘密結社・薔薇十字団と錬金術
薔薇十字団を創設した伝説的錬金術師 *クリスチャン・ローゼンクロイツ
ホムンクルス製造の物語 *ヴァレンティン・アンドレーエ『化学の結婚』

ブログ案内
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