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フランボワイヤン・ワールド
幻想都市計画論
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イオの末裔
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《内容》
 教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆(鬼塚サヤ)の孫として生まれた鬼塚宏樹(主人公=私)は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のK市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。

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第2章 目的別幻想都市計画論 
■軍事都市

サンプル軍事都市ギゼル 

5 防壁のいろいろ


 軍事都市の中でもっとも重要な要素は防壁(市壁)だと断言していい。
 普通の都市でもその重要さは変わらないが、ストーリーの中で、重武装、難攻不落といった印象を強く与えるには手っ取り早い施設である。

 都市と防壁の関係は古い。人類が都市を作り始めたときには防壁もあったはずだ。地球上に都市というものがいつ登場したか、正確なことはわかるはずもない。だが、それは一般的に前7000年頃ではないかと考えられている。
 人類が狩猟的生活から離れ、1カ所に定住するようになったのが、前10000年頃。聖書にも登場するエリコには、前8000年頃には、約2000人が住んでいたといわれている。集落の面積が3ヘクタール程度だったことを考えると、人口密度も相当なものだ。2000人という人口も、当時としては相当な数である (ヨーロッパの中世でも、人口2000人いれば、そこはかなり立派な都市だった。ほとんどの都市が人口500人以下だった。
 このような非常に古い都市に、すでに防備のための壁が存在していた。エリコの場合、それが交易などによって発展した前7500年頃に、壁が築かれたと考えられている。壁には、どっしりした見張りの塔も作られていた。

 ここでは軍事都市には(普通の都市でも)欠かせない防壁についてみていこう。

■防壁の種類

 壁以外の防御手段も、ここでは防壁として説明していこう。その種類には以下のようなものがある。

チェックリスト ≪防壁・防御手段の種類≫
ばらなどの刺のある植物、刺のある蔦、鉄線、鉄菱、とげ針、鹿追い、潅木、空壕、水壕、落し穴、盛土、土塁、柵、塀、石壁 

 こうした防御手段をいくつか並べるだけで、難攻不落の都市ができる。いろいろな種類を並べてもよいし、同じものを幾重に並べてもよい。

■防壁の規模と形

 中世ヨーロッパの都市の防壁(市壁)は、幅が基本的に2m前後で、高さは20mに達した。しかし、中世の都市では、現実的な事情から、市壁の長さは短いほどよいとされた。いうまでもなく、その方が安あがりだからである。

 市壁の形は、都市の建設される立地場所によって、それぞれ特有のものとなった。要害の地に都市が建設された場合、市壁は多くの場合、地形に合わせて作られた。山の上とか起伏の多い土地であれば、等高線に合わせて市壁が作られ、その結果として、都市よりも大きな部分を市壁が取り囲むこともあった。これは、ヘレニズム時代のクニドスやプリエネなどと同じだ。岬であれば、海に面した部分よりも、敵が攻めてくる可能性の大きな、付け根の方に重点が置かれるわけだ。
 平坦な土地の場合、市壁は設計者の思想によっていろいろな形になった。一般的なのは円形だが、四角や多角形がよいともされた。

▼城壁のいろいろ
 
城砦が発展して都市になったもの
 
城砦が独立して城壁を持つもの
 
市壁をさらに堀で囲んだもの
 
等高線に沿って作られた城壁
 
岬の付け根に作られた城壁
 

■防壁の付属物

 防壁は石の壁があるだけでは十分ではない。付属物とも呼ぶべき欠かせないものもある。
 市壁に守られる都市の形態が、ほぼ完成の域に達したのは、中世のヨーロッパだった。中世のヨーロッパ都市には、古代から築かれてきた要塞技術のほとんどが生かされているといってもよい。
 中世の都市は、多くが城を中心にして出発した。そのため、中心には塔を持つ城があり、その周辺の都市を市壁が取り囲む形だった。もちろん、中心となる城を持たない都市も多かった。このような都市は中世の都市でも比較的新しい都市で、民族移動の激動が終焉した後のものといえるだろう。
 しかし、いずれにしても、中世の都市の軍事的側面には大きな共通点があった。それは、どのような都市も、壁、塔、門を持っているということだ。ここでいう塔とは、城の天主としての塔ではなく、見張り塔とか橋頭堡のような塔を指している。

【1】 壁面外部の斜堤

 敵が取り付きにくく、攻城兵器の接近を妨げるために、斜めの堤にしてあった。

【2】 ポモエリウム

 壁のすぐ内側に沿って走る環状の小道(ポモエリウム)をいう。これは、壁に沿って兵士たちが迅速に移動するためのものだった。武器などを準備するのもこの道だった。ポモエリウムは、エジプトの要塞にすでに見られる。

【3】防壁上の通路とマチコレーション

 防壁上は人が歩けるようになっており、その両側にはぎざぎざの床狭間(マチコレーション)が付けられた。

 
マチコレーション

【4】塔

 市壁には所々に稜堡としての塔が建てられた。塔は、だいたい100~120m置きに作られた。この間隔は、トウテキ器の飛距離(その時代の性能による)の2倍ということで決められた。
 古代の稜堡と違い、塔は円筒形で、数個の「狭間」が付いており、ここから敵を攻撃することができた。
 塔は、中世にあっては、市壁よりもはるかに高くまで突き出していた。この塔が、低くなるのは、火器が登場してからである。
塔の形は円形が好まれた。これは、中世にあっては、円形こそがもっとも強力な形だと考えられていたからだった。稜堡としての塔が徐々に三角形になるのは、16世紀以降と考えてよい。

 

【5】門

 都市を市壁が取り包んだ場合、当然、出入りのための門が必要になる。しかし、門は軍事的に見れば大きな弱点である。そこで、門のそばには必ず両側から挟むように巨大な塔が作られた。これは、都市の中を河が流れているような場合も同じだ。その出入口の両側には塔が作られたのである。

■防壁のない防御

 もちろん、都市を防御する方法は防壁だけとは限らない。非常に古い都市であって、壁以外の方法で、住民の居住区を見事に防御している都市も存在している。これは、南アナトリアのコニア平野に、前6500年頃から約千年間も繁栄し続けた、チャタル・ヒュユクという都市だ。
 この都市の防御方法は非常に変わっていた。この都市は市壁を持たないかわりに、街路も持っていなかったのである。街の建物は隙間なく密接して建てられており、家々の屋根が道路代わりだった。当然のように、入口も屋根に付いていた。窓もなく、入口は煙突代わりでもあった。段々になった屋根の上を歩くと、ところどころ、建物のない四角い穴のような広場があった。ここは広場というよりは、廃棄物の捨て場所だった。集落の回りには、食料となる動物も住み、耕地も存在していた。
 チャタル・ヒュユクの人々は、始めから防御のために、そのような都市を作ったのではないといわれている。建物の壁はそれほど頑丈ではなく、破壊槌のようなもので、簡単に破壊できる強度しかなかった。しかし、このような建築が、ごく自然に都市の防御につながったことは確かだろう。

 
都市チャタル・ヒュユク

■防壁は都市の内部にもある

 都市の周囲を取り巻く市壁以外に、都市の中にも防壁が存在することもある。アテネやエルサレムの神殿は、市壁を破られたときには最後に籠る場所でもあった。
アテネの場合、最初に誕生したのはアクロポリスだった。アクロポリスはいうまでもなく、城砦である。標高80mという高台に建っている。このアクロポリスの周りに都市が生まれ、それがさらに市壁によって囲まれたのである。
 このような都市は、ポリスの中でも歴史が古く、自然成長的な都市だといえる。自然発生的だから、道路などもそれほど幾何学的ではない。同じポリスでも、植民市として誕生したものでは、道路も格子状に走っている。ミレトスなどがその代表だ。

 まだ都市が大きくなかった頃の市壁が残っている場合もあるだろう。その市壁が旧市と新市の境目でもあった。都市の中に何重もの壁があるということは、その都市の歴史を物語るものでもある。繁栄した都市にはたいがい、そうした遺跡があった。

 住居の構造や並び自体が防壁となっている場合もある。日本の城下町では、敵が城へ直進できないよう、建物を配しているところもある。

■防壁を作る際に考えること

 防壁は立派であればあるほどよいのだが、そううまくはいかない。防壁を築くには費用がかかる。たとえ奴隷を使ったとしても彼らに食糧を与える費用がかかる。また石の壁を築こうにも都市の付近に石がなければ、はるか遠くから運ばなければならない。都市は、経済力にあった防壁しか作ることができないことを知っておかなければならない。

 コストを抑える手だてとして、遺跡を利用する手はある。西欧はゲルマン人の侵入を受けて都市の規模を縮小した時期があった。フランスのアルルなどは、ローマ時代の円形闘技場跡のなかにすっぽりと入ってしまった。円形闘技場は、確かに城砦みたいなものだが、急場しのぎの対策にはもってこいかもしれない。

 
アルル

 ローマ時代から残っている城砦などは、中世初期には積極的に利用された。このような典型としてカルカソンヌの城砦都市がある。これは丘の頂にもともと存在していた城砦の中に都市が誕生したものだ。

 軍事(攻城)技術の発展も念頭におかなければいけない。投石機で自然石をぶつけてくるのか、じょうぶな鉄球をぶつけてくるのか? 大砲で撃ってくるのか? 技術の程度によっては、防壁など意味がなくなるかもしれないのだ。
 攻城技術は防壁の厚み・材質はもちろんだが、形そのものにも影響がある。

 先に取りあげたパルマノーヴァはあくまでも近代初期の軍事都市である。ということは、これらの星稜形軍事都市は、確かに中世的な市壁や外堀、稜堡などを持っているけれど、それが対象としている武器はもはや中世の武器ではないということである。
 中世においては、武器といえば、トウテキ器、破城槌、攻城塔などだった。だが、近代の武器は大砲である。したがって、市壁も対大砲用に作られていることを忘れてはいけない。
 といっても、星稜形軍事都市が対象としていた大砲は、大砲の中でも初期のもので、石弾を発射するようなタイプだった。だから、トウテキ器と同様に、発射された弾が市壁にあたると、市壁が壊れるより前に弾そのものが砕けてしまった。この段階では、大砲とトウテキ器の違いは、威力の違いよりも飛距離の違いだった。星稜形軍事都市の市壁は、飛距離の長い石弾大砲用のものだといえるだろう。
 そこで、この時代の軍事都市では市壁を作る場合に、一番重要となったのは、市壁の内側のラインから敵を遠ざけておくということだった。この結果市壁が、星陵型などの複雑な形になったのである。
 このような市壁形態の進歩は、いくら弁解してみても、中世的なものの最後の悪あがきといった感じがする。
 やがて大砲の弾が鉄球になると、石の市壁は容易に打ち砕かれるようになる。こうなると、もはや石の市壁によって街を守るという発想自体が古いものになってしまうのである。 それでもなお、市壁によって街を守ろうという発想は存在した。だがその場合には、石の市壁の背後に土を盛るというように、市壁の質自体が変更されてくるのである。

(本文中のイラストは深田雅人作)
幻想都市計画論目次
第1章 都市のリアリティー


1 リアルとは?
2 現実の都市を見る
3 何から始めるか

第2章 目的別幻想都市計画論


■軍事都市

1 理想の軍事都市をもとめて
2 軍事都市の施設と機能
3 脅威の存在が都市に与える影響
4 立地場所を考える
5 防壁のいろいろ

■宗教都市

1 宗教都市とは何か?
2 中心から都市を作る
3 宗教都市の分析
4 宗教都市の中身
5 宗教都市らしさのために

■商業都市

1 なぜ商業都市なのか?
2 商業都市の立地条件と形態
3 商業都市の構造と要素

■行政都市

1 行政都市の特徴
2 王宮都市の形態
3 王宮都市の構造と要素
4 王宮のない中心都市

■鉱山都市

1 鉱山都市の特徴
2 鉱山都市の形態
3 鉱山都市の構造と要素

■大学都市

1 大学都市の特徴
2 大学都市の形態
3 大学都市の構造と要素
4 魔法学院都市

■植民都市

1 植民都市の特徴
2 植民都市の形態
3 植民都市の構造と要素

第3章 条件別幻想都市計画論


0 概要
1 「立地場所」から作る
2 「世界背景」から作る
3 「気候条件」から作る
4 「存在意義」から作る
5 「規模」から作る
6 「都市の中身」から作る

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