幻想都市計画論　第二章　目的別幻想都市計画論　宗教都市

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《内容》
　教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆（鬼塚サヤ）の孫として生まれた鬼塚宏樹（主人公＝私）は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のＫ市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。

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第２章　目的別幻想都市計画論　

■宗教都市

サンプル宗教都市サン・ロレンソ

２　中心から都市を作る

■宗教都市の中心

　都市を作る場合、その中心を考えることは非常に大切なことだ。ここでいう中心とは位置的な中心ではない。その都市のあらゆる活動の拠点となる場所のことだ。
　宗教都市で、あらゆる活動の中心になるのは神である。したがって、神の宿る神殿や、聖聴音の宮殿のようなものが都市の中心になる。宗教都市では、これらの場所が中央官庁のような役割を果たしているのだ。

■中心の位置を決める

　中心をどこに置くかは、それほど難しいことではない。一番簡単なのは、宗教権力の中心を、都市全休の位置的な中心してしまうことだ。

　しかし､都市には固有の立地条件があり､また歴史もある｡そのため､宗教権力の中心はどこにあってもよいのである｡
　そこが､世界宗教の聖地のような場所なら､中心のある場所には､何か特別の由来があるのが望ましいだろう｡たとえば､キリスト教の聖地として知られるローマは､サンプルにあげたサン･ロレンソと同じように､中心だけが大きな河によって都市から切り離されている｡それは､その場所か､キリスト教徒にとって最重要な聖ペテロの永眠の地であり､ローマ時代から聖ピエトロ(ペテロ)寺院のある場所だったからだ｡
　由来があることで､たとえどのような場所に中心かあっても､それを納得させることかできるのである｡

■中心は 1つか？

　宗教都市には､ただ1つの中心があるのが理想的である｡しかし､都市の中心が常に安定しているとは限らない｡簡単な話､神とは別に王が存在するかもしれないし､王と神が敵対するかもしれない｡そうなると､都市の中心か分裂してしまう｡
　そのような都市を､宗教都市と呼んでよいのかどうかはわからない｡だが､その可能性は､十分にあり､歴史も証明している｡
　宗教都市を作る場合､このような中心の力関係を考えないわけにはいかない｡また､たくさんの中心が存荏するような都市を持ち込むことにより､対立を描くストーリーを展開しやすくできる｡

　都市の中で対立が起こるためには､その都市の中に原因かなければいけない｡たとえば､1つの宗教都市の中で､宗派ごとの宗教戦争が起こるとする｡この場合､宗教都市には､各宗派の拠点が存在しているはすだ｡それぞれの拠点は､当然､自分こそが都市の支配者であり中心だと考えている｡これは､宗教都市の中心か分裂し､複数存在しているということである｡
　これは､別の形の対立の場合でも同じことだ｡正統と異端の争い､多神教の神々の争い､宗教権力と王権の争いなど､対立といってもいろいろなタイプがある｡そして､それと同じだけの都市のタイプが存在するわけだ｡
　どうだろうか､このように考えてみると､都市の中心の重要性がわかるだろう｡

▼チェックリスト ≪都市の中心の数と状況≫

中心の数	状況	対立の可能性
１個	人（王）=神	小さい
	神（聖職者を含む）が最高権威	小さい
２個	神（聖職者を含む）の他に王権	大きい
	神（聖職者を含む）の他に市民権	大きい
	正統と異端が存在する	特に大きい
複数	数種の宗派が存在する	大きい

　もちろん、中心のありかたによって、対立の起こり方も異なってくるわけだ。次に、このそれぞれの場合に、中心が持つ意味を説明しよう。

■中心が１個の対立

　中心が１個の宗教都市では、権威のすべてがその場所に集まっている。都市の安定度は非常に高く、そこでは、対立が起こる可能性は少ない。このような都市で起こる宗教的な争いといえば、同じ宗派に属する僧侶同士が、最高権威者の座をめぐって暗躍する、といった感じになるだろう。

■中心が２個の対立

　宗教都市の中に中心が 2個存在する場合、対立が起こる可能性は高い。ただし、２個の中心が共存している場合には、対立は表面化しないことが多い。
　共存には、なかよく連合している場合もあれば、一方が他の一方に従属している場合もある。戦争などの行動を起こすには、意志だけでなく能力も必要だ。相手のカが強く、とても勝つ見込みがない場合には起こらないのである。内心では従属したくなくても、そうする以外にないということは、よくあることだ。この場合、力の小さな権力は、水面下で行動の準備を進めるに留まるだろう。共存関係を破っての闘争は、小数派の準備が完了するか、準備が発見されてしまった場合くらいにしか表面にはあらわれない。それ以外の対立は、あくまでも水面化で進行するのである。
　対立が表面化しやすいのは、２個の中心権力のカが同じ程度で、どちらが強いかを判断できないような場合だ。２個の権力は、最高の権力をめぐって、互いににらみ合い、つねに一触即発の状態なのである。
　２個の中心の力の差が歴然としていても、正統と異端の組み合わせの場合には、闘争が起こると考えてよいだろう。正統は、けっして異端の存在を許さない。異端のカがどんなに小さくても、正統は、敵が絶滅するまで攻撃を止めないのである。

■複数の中心の対立

　複数の宗派があるような宗教都市では、中心の数も多いので、それぞれの関係はとても複雑だ。
　この場合、ある一宗派が他の宗派を押さえ込むだけの絶大な力を持っているなら問題はない。ここでは闘争の起こる可能性は少ない。この状況が、少しでも崩れると、各宗派の対立の構造は、とても複雑なものになってくる。あるときは、すべての宗派が完全に対立し、互いに敵対し合うようなことになる。小さな宗派同士が同盟関係を結ぶことで、大きな宗派に攻撃を仕掛けることもあるだろう。勝敗の行方も複雑に変化する。裏切りや寝返りの繰り返しで、予測のできない展開になってしまうのだ。

■つながりと分断を示す街路と街道

　先ほど説明したように、宗教都市の中心には、大きな神殿などの宗教施設を配置すればよい。しかし、それだけでは十分ではない。中心となる施設にともなって、街路と街道も適切に作らなければいけない。
　サン・ロレンソでは、外部の世界と都市を結ぶ街道はすべて、都市の位置的な中心部に向かっている。このような街道を持つことによって、サン・ロレンソを世界の中心に位置づけることができるだろう。
　さらに、都市の中に入り込むと、今度はすべての街路が、聖なる場所、教皇庁宮殿や大寺院のある城砦へと向かっていることがわかる。
　こうして、何が中心かということが、誰の目にも、自然に理解されるようになっているのだ。

　街路や街道を放射状あるいは扇型に配置することは、中心を作り出すためのもっとも基本的な方法だ。
　複数の中心の従属関係や対立関係なども、基本的に、この方法で表現することができる。実際ローマでも、中心を作り出す扇型の街路は、あちこちに見ることができる。
　サン・ロレンソでも、そのような構造が生かされており、大きな中心の他に、小さな数多くの中心を作り出すのに役立っている。１つの街道から都市に入り込むと、すぐに教会があり、そこに広場がある。この広場から、三叉路型に街路が延びている。これは、教会を小さな中心とするためのものである。
　三叉路やY字路は、このように中心を作り出す役に立つ。とにかく、小さな扇型を作ればよいのである。
　サン・ロレンソでは、小さな扇型は、すべて大きな扇型から枝別れしたようになっている。これによって、小さな中心が大きな中心に従属していることも示されているのだ。
　この基本さえ押さえておけば、後は応用でいろいろな形を作ることができるだろう。参考までに、中心を表現する代表的な街路の構造をまとめたものが次の図である。どこが中心かは特に記さないので、あなたが考えてほしい。

▼チェックリスト ≪中心を表現する街路の構造≫

街路の集中で表す（１）	街路の集中で表す（２）
イレギュラーな構造で表す	二本の太い街路で表す
一本の太い街路で表す
環状線で表す（１）	環状線で表す（２）

（本文中のイラストは深田雅人作）