幻想都市計画論　第二章　目的別幻想都市計画論　宗教都市

ようこそ。ここは草野巧のホームページです。

フランボワイヤン・ワールド

小説
イオの末裔
〔Kindle版〕
販売開始しました。

《内容》
　教団拡大のために凶悪な犯罪もいとわない《鬼神真教》の教祖・サヤ婆（鬼塚サヤ）の孫として生まれた鬼塚宏樹（主人公＝私）は鬼塚一族の残酷な行為を嫌って一族の家から逃亡し、裏切り者として追われる身になる。その恐怖から彼は各地を転々として暮らすしかない。やがて彼は大都市のＫ市である女に出会い、一時的に幸福な暮らしを手に入れる。だが、そんなある日、大都市の町中でサヤ婆を狂信する磯崎夫妻の姿を見つける。そのときから、彼の恐怖の一日が始まる。恐るべき鬼塚一族の人々が次々と彼の行く手に出現する。…、そして、彼の逃亡がまた始まる。はたして、彼は逃げ切れるのか。鬼塚一族の魔の手を逃れ、自由な暮らしを手に入れられるのか。

Amazon.co.jp ウィジェット

小説
イオの末裔
〔Kindle版〕
販売開始しました。

第２章　目的別幻想都市計画論　

■宗教都市

サンプル宗教都市サン・ロレンソ

３　宗教都市の分析

■ストーリーを考える

　宗教都市には、都市全体が 1個の宗教施設のように作られているものもあるし、都市の中に宗教的なものとそうでないものとが共存しているものもある。また、都市の規模が大きなものもあれば、非常に小さなものもある。宗教の内容によっても、宗教都市の形態は、はっきりと違ったものになってくる。

　宗教都市にいろいろな種類があれば、そこで展開するストーリーも、それによって異なってくるのは当然である。魅力的なファンタジーのストーリーを展開するためには、ストーリーに最適の宗教都市を選択する必要があるのだ。
　ここでは、物語に登場させやすい、代表的な宗教都市について考えてみよう。

■世界宗教の聖地

　宗教都市を作る上で、すべての基本になるのが、この一大聖地である。その宗派の総本山となるこの地には、宗教都市に必要な要素がすべて詰まっている。だから一大聖地について理解していれば、他の都市の宗教的要素を設定することもできるのだ。もちろんその場合は、それぞれの都市の状況に合わせて、スケールダウンする作業は必要になる。
　一大聖地を舞台としたストーリーは、それこそ無限に考えられるだろう。ここには、宗派の最上等の秘宝、秘法、聖域、聖者など、どれか 1つあれば物語ができてしまうようなものが、いくらでもあるのだ。

　一大聖地の大きな特徴は、次の 2つである。

◎非生産的な都市

　一大聖地には市民らしい市民は住んでいない。ここに住んでいるのは、高位聖聴音と古くからの貴族、そして彼らに奉仕を提供する下位の労働者がほとんどである。たしかに、手工業や商業も若干存在するが、それは都市の経済の中で大きな位置を占めてはいない。あくまでも聖職者たちの生活のためにのみ存在しているのである。
それでは、都市の収入は何によってもたらされるのだろうか？この中心となっているのが、信者たちの布施や寄進である。これは、ルネサンス期のローマでもそうだった。

◎巡礼者のための演出

　聖地にとって巡礼者は忘れることのできない存在である。彼らの布施や寄進によって成立しているのだから、それは当然だ。そのため聖地には巡礼者を意識した要素というものがある。
　その 1つが、他の区域との「差別化」だ。
　聖地としての宗教都市には、まるで都市全体が 1個の宗教施設のように作られているという特徴がある。これは、巡礼者が聖地に足を踏み入れたときに、感動を受けさせるためである。
　また、聖地の宗教施設は、末端の宗教都市のものよりもはるかに立派だ。そこには宗教の中心地としての誇りがあり、すべての建築に、巡礼者たちの記憶に残るような記念性が求められるのだ。これは各寺院の巨大さとか、芸術的完成度の高さとなってあらわされる。
　こうした意識は、都市をきれいにしようという考えを生む。もちろん巡礼者の目に付きやすい場所が中心である。先ほどの都市の入口や、街道と直接つながる街路沿いなどがそうだ。
　また、浮浪者や乞食のような、巡礼者に悪い印象を与えるような存在は、本来ならば許されないところだ。実際にローマでも、排除する運動が起こったこともある。しかし、聖地自休、もともと不労所得で成り立つような都市である。そのような存在も自然と数多く集まってしまうのだ。
　この巡礼者のための演出は、物語の中では、読み手に対する演出にもなる。聖地らしさを表現するためには、とても大切な条件といえるだろう。

■政治的な宗教都市

　邪神に仕える僧侶たちと、一般市民が対決するストーリーなどを展開させる場合、隅から隅まで、完全に宗教的な都市を作っても意味がない。それよりも、宗教が、政治的な支配に利用されているような都市を作るべきだろう。
　ここでは、一般の市民の生活を、権力者である僧侶たちが支配している。都市の中には、宗教施設と同時に一般市民たちの生活空間も存在している。そして、一般市民たちは、通常の都市と同じように商業や手工業に従事しているのだ。
　このような対立がある都市では、都市の内部が宗教区域と一般人区域というように、しばしば分裂しているのだ。

宗教都市の区域の分裂

■小さな宗教都市

　もちろん、宗教都市といっても大きなものばかりではない。もっと古代風な宗教都市も存在すれば、極めて小さな宗教都市も存在する。
　物語の中で、ちょっとした宗教施設が必要なときには、壮大な宗教都市は必要ないだろう。それよりも、教会の周りに人が住んでいる集落程度の小さな町の方が魅力的である。
　そこで、巨大聖地の対極にある、非常に小さな宗教都市を紹介しておこう。中世のフランスのモン・サン・ミシェルがそれだ。
　これは都市というより、教会を中心にした城砦に近いものだ。しかし、丘の頂に建つ教会の回りには、斜面にへばり付くように小さな民家が密集しており、その回りには城砦の壁のような市壁も存在していた。物語の中で主人公がちょっと立ち寄る宗教都市としては、最適ではないだろうか。